山歩き系

2008-07-25 北鎌尾根縦走、槍ヶ岳へ その1 水俣乗越から北鎌のコルへ

2008/07/25-2008/07/27 上高地から入り槍沢から水俣乗越へ上がり、天上沢を下降、北鎌沢右俣を北鎌のコルまで上がりビバーク。翌日、北鎌尾根を縦走し槍ヶ岳山頂を踏む。

その2 北鎌尾根のコルから独標まで北鎌尾根前半
その3 独標から山頂直下のチムニーへ北鎌尾根後半
その4 上のチムニーを登り山頂へ、そして下山

先々週、双六岳と笠ヶ岳へ行ったのが、どうやら気持ちに火が付いてしまった原因だと思う。あの憧れの「北鎌尾根」へ行こう、と。偶然、会社の方も来週の金曜日は休みを取ることができそうなので、一気に行くことに気持ちが傾いた。そのため、出発前の1週間は仕事に身が入らなかった(;´д`)。

単独行故、ルートと装備は悩んだ。岩稜に雪が付いていたらアウトであるが、インターネット上で調べた記録や、大天井ヒュッテの小池さんの14日に行った状況のアップして下さった情報を見ると、幸いその心配は無いようだ。

ルート上の心配なところはざっと、

  • 北鎌沢右俣のルート間違い
  • 独標入口のトラバース
  • 独標トラバースルートからのチムニー取り付き、独標稜線への登攀
  • P11 ルンゼ下降
  • P13 白ザレのクラック直登
  • P14 P15 直登

である。どの記録を見ても、いま一つハッキリしない。行ったことがないので当たり前であり、行ってみて納得もした(その辺は次回へ)。

装備であるが、ロープを持って行くかどうか、が最大のポイントだった。ネット上の記録では特に懸垂する箇所はなく、今回お世話になった山渓のDVD にもラペルする地点の説明はない。そこで、「ロープを使わなければ進めないような、無理押しはしない。」というように気持ちを切り替え、持って行くのをや めた。

北鎌尾根に行く上で重要な点として、体力と技術である。一旦尾根に上がるとエスケープルートがないため、如何に早く山頂まで抜けられるか、なのであ る。自分のパワーは、原付の50ccエンジンほどで、スピードが早いわけでなく、馬力があるわけでなく、長時間行動ができるわけでもない。ということで、 軽量化を図り、ルートも1日目に北鎌のコルまで上がってビバークすることに決めた。

24日夜、自宅を出発し12時半過ぎ、いつもの沢渡駐車場へ駐車、4時にアラームをセットして仮眠する。天気予報は、上空に寒気が入り込むため晴れ一時雨、の予報がこの一週間続いている。

起床後、4時半前に車から降りて準備をしていると、タクシーの運転手さんが相乗りを誘ってくれた。ありがたいことに、隣に駐車した3人組と同乗する ことができたため、バスより一足早く釜トンネルのゲート前に到着、ゲートも時間より早く開けてくれ、上高地で計画書を提出して出発したのが、5時過ぎと思 いのほか早く行動開始することができた。因みにタクシー料金は4000円固定(とのこと)で、バスなら往復乗車で1800円である。

上高地から入るのは久しぶりである。特に、横尾経由は横尾までが長いので、敬遠しがちだ。さらに、平坦な道のりのため、あまりスピードを上げると後に響くので注意もしなければならない。

明神に着くと、既に登山者が表に出て出発準備をしている。ここから見える明神岳は5峰あたりだろうか。明神を過ぎたあたりから、下山者とすれ違うようになってきた。徳沢や横尾に宿泊した人たちだろう。徳沢で一息入れ、横尾で朝食のサンドイッチを食べた。

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横尾を出発、林道もここまで、ようやく山歩きの雰囲気になった。と思ったら、迷彩服の自衛隊の団体皆様とすれ違った。何故か気恥ずかしかった。

一ノ俣、二ノ俣出合の橋を渡り、登山道も登り坂になってくる。槍沢ロッジを越えると、右側に東鎌尾根末端の険しい山容が見えてくる。

ババ平は、元の槍沢ロッジがあったところで、現在はキャンプ場に指定されている。仮設トイレが設置され、水も引かれていた。ただ、水の出は細く、雪渓からかなりの距離をパイプで引いてあるらしく、ぬるま湯になって出ていた。

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登山道は整備され、槍沢の護岸のため、河原の石が針金のネットできれいに敷き詰められているため、大変歩きやすい。槍ヶ岳登山において、このルートは距離が長いが、肩の小屋まで何の心配もなく登れるので、登山客が多いのも理解できる。

上高地を出発してから5時間20分、ようやく水俣乗越の分岐へ到着した。

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水俣乗越へのルートは、右側の東鎌尾根稜線へ急登するコースだが、踏み跡などしっかりとした登山道である。

この沢を詰めて行くのかと思ったが、沢からはずれ尾根を上がるようにぐんぐんと高度を上げてゆく。振り返ると、天狗原方面だろうか、雪渓と緑がコントラストのカール上の地形が見える。

登りも気持ち緩やかになり、空が左右に広がってくると、直ぐに水俣乗越のコルに出た。

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時刻は11時半過ぎ、北鎌沢出合でビバークするか、北鎌のコルまで登ってしまうかは、北鎌沢出合に14時までに到着するかどうかで決めようと考えていた。はやる気持ちを抑え、ここで昼食とした。

乗 越は、人のいる領域といない領域を分ける分水嶺のようだ。ここを下ると容易に戻ることができない、と言う悲壮感さえ感じるのは、きっと厳冬期だけだろう。 この時期なら、ここを登り返してもいいし、貧乏沢を登ってもいいし、天上沢を下って湯俣に出てもいいので、それほど心配する必要はない。でも、下降を開始 すると、やっぱり身の引き締まる思いがした。

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最初はザレた急坂を下降、左手沢には雪渓が下まで続く。草付きをつづら折りに下降、そのうち右手の藪に入る。

藪を抜けたところは、右手上部からの雪渓の沢で、100~150mぐらい雪渓上をそのまま下降、雪渓が切れた後は涸れ沢の河原を下降する。アイゼンは必要としなかった。

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そろそろ水筒のポカリもなくなりつつある。が、水は間の沢と出合うまで取れない。

この河原の下降はつらかった。左上北鎌尾根上部は、ガスで覆われており、天気もあまり良くない。どうかビバーク地まで降らないように、と願うだけである。

間の沢出合でようやく水を補給、喉を潤す。そこから少し下降すると、左手北鎌尾根から一気に押し出してくる沢に出合う。ここが北鎌沢出合だろう。あたりを見回すと直火した後もあり、間違いないようだ。

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ようやくスタート地点に着いた気分だ。天上沢は白く、広く、下流を見ても上流を見ても人の気配はない。時刻も14時前である。今はまだ天気ももっているし、ここは、思い切って北鎌のコルまで上がってしまおう、と決めた。

地形は、DVDや写真を見た通りで、天気が悪くなければそうルートを見誤ることはないように見える。この辺が落とし穴のようだ。実際登ってみると、「あれ?」と思う箇所がいくつかあった。

北 鎌沢に取り付いてすぐに、右俣から下降してきた単独行者とすれ違った。ルートに3人組1パーティと単独行者1名が入っていること、右俣の水流はすぐに切 れ、水量も細いので早めに補給しておいた方がいいことなど。それにしても彼は、北鎌尾根を行って帰って来たようで、そのパワーに圧倒された(カッチョエ エ~奴)。

彼と別れた後、直ぐに左俣と右俣の出合に到着。ここで、今晩と明日の縦走に必要な水を補給する。2Lのカモノハシと1Lの水筒、別に500mlのペットボトルで都合、3.5Lの水の重量は、容赦のない重石となってザックに収まった。

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水俣乗越がおよそ2500m、北鎌沢出合がおよそ1800mで700m下降、これから北鎌のコルおよそ2500mまで登り返さなければならない。この登りは、河原の下降で疲れており、時間的にも10時間に及ぶ行動になっているのでかなりまいった。

北鎌沢右俣は、急登の上、大きな岩がゴロゴロとしていて、背丈以上の岩がいくつかあり、それを乗り越えて行くので大変疲れる。あるところでは、大岩 を左側から乗り越して行くと、そのまま左の支沢へ入って行くところがあった。また、右側からは踏み跡と思われるような支沢が入り込んでいる。ルート判断を 誤る原因が、この辺にあるのではないだろうか?

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高度はどんどん上がるので、振り返ると喜作新道から下降してくるという貧乏沢がハッキリと見える。沢のあちこちに雪渓が残っているようだ。休むたびに振り返り、徐々に喜作新道の稜線が目線の高さに近づいてくるのを感じる。

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幸い、日光は雲に遮られており、熱中症になるほどではない。しかし、20分置きぐらいで休みを入れないと、とても登り続けられない。が、雲が少しずつ厚くなり、夕立が来そうな雰囲気である。どうかコルにたどり着くまでもってくれるように、と願うばかりである。

左右の空が広がってきて、コルに近づいていることを感じる。が、ぽつぽつと雨が降り始めた。足を速めるが、思うようには登れない。

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とにかくザックカバーをして、ザックの中を探り、カサとカッパを取り出しやすい位置に移動して行動に移る。見る見るうちに雷鳴が轟き始め、雨が強く なる兆しを感じる。沢の真ん中で大雨になるのは怖いので、急いで草付きの尾根に取り付いた。と、同時に激しい雨音と共にシャワーのように雨が降り注いでき た。

急な草付き斜面でカサをひろげ、転げ落ちないようにかがみ込んで丸くなる。雷鳴が近付いて来ているので、周りを見ながら落雷の無いことを願い、肝を 冷やす。北鎌沢に取り付いた時間を考えるとコルに近いはずなのだが、この上はコルなのか、そして右の方なのか左の方なのか、どうも判然としない。

雨足が緩んだので、滑りやすい草付きから、もう少し安定する岩のある右上方へ、草につかまりながらトラバースする。が、更に雨足は強くなり、雷もい よいよ近くで轟いている。喜作新道の稜線も再び雨雲に覆われ、何も見えなくなった。とにかく、雨が弱まるのを待つより仕方がなさそうだ。しゃがみ込んだ足 は痺れ、背中から伝わってくる雨水がしみ込み、気持ち悪い。

周りの風景を見るに、どうやらコル直下の「右へ右へ、最後は左へ」のところで、右に入り込んでいるような感じがする。土砂降りの中、どうやって急な草付き斜面を左へトラバースするか考える。

幸い、降り始めて30分以上過ぎたところで、雨足が再び緩んだ。折りたたみ傘をポケットに突っ込み、両手を使って小枝や草につかまり、一気にトラバースして行く。とすると、すぐ左上にコルにたたずむ黄色いテントが見えるではないか。

なんだ、本当にコル直下だったんだ。雨と汗でずぶ濡れになって、ヽ(`Д´)ノウワァァァン。

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テントは、湯俣から入山したという単独行者N氏のものだった。狭いコル上でテントを寄せてくれ、場所を開けてくれる。奇しくも同じテントだった。もっともこちらは1人用、あちらは2,3人用であるが。

時間も5時近くで、夕飯の支度をして寝る準備にかからないとならない。しかし、靴から靴下、パンツ、シャツとずぶ濡れ状態だ。N氏がラジオの天気予 報で、「高気圧が消え、熱帯低気圧が台風に変わった」ことを伝えてくれた。明日はここを下って、水俣乗越を登り返さないといけないのかな?と、「敗退」の 2文字が頭をよぎる。

バーナーでテントの中を温め、糖分を水分と共に補給、夕飯の支度をしながらパンツを乾かす。吐き気がする中、無理にでもお腹に詰め込む。人様にはとてもお見せできる姿ではありませんでした(;´д`)。

夜は、軽量化のためシュラフはなくインナーのみ、おまけに下半身は濡れており、こんな状態で果たして眠れるのだろうか?

暗くなり始めたので、フリースを着こみ就寝。夜中に寒くなったのでカッパを着こむ。何度も目覚めたが、それでも無事に朝を迎えることができた。

つづく その2 北鎌尾根のコルから独標まで北鎌尾根前半


上高地出発(5:05)-明神館(5:55)-徳沢園(6:45)-横尾山荘(7:45)-
二ノ俣(8:50)-槍沢ロッジ(9:20)-水俣乗越分岐(10:20)-
水俣乗越(11:35)-間の沢出合(13:00)-北鎌沢出合(13:30)-北鎌のコル(16:45頃)