甲斐駒へのバリエーションルートで、あまり知られておらず、大変マイナーなルートに日向八丁尾根がある。鞍掛山はその途中、駒岩から南側に相対して いる山である。なお、日向八丁尾根は駒岩からさらに進み、大岩山を越えてからとなる。大岩山からの下りでは、懸垂下降があるため一般向きではない。松濤明 が昭和25年(1940)の2月に、伊那の戸台から甲斐駒を経て烏帽子を越え、そしてこの大岩山を登り返している。
鞍掛山は、日向山から錦の滝への分岐で、そのまま岩の間を登って稜線を進んで行く。
痩せた尾根を進んで行く。ルートは、最近の陽気で解けた雪が凍った氷で覆われている。ピッケルをバイルのように打ち込み、足を木の根元や凍った固い 土に置き慎重に登る。小さなピークを越えて下って行くと、シカの家族が右手の笹藪へ逃げて行った。シカのいたコルでアイゼンを装着する。
コルから正面の急斜面を登って行くと、そのまま尾根を上がらず、左の沢筋をトラバースする場所がある。ルートには標識など一切ないので、赤布やテー プなどに注意しながら進まなければならない。目安は、西側甲斐駒の方の尾根を行くことである。ただし、帰りは下り過ぎてしまう可能性があるので、このトラ バースへの戻りに注意しながら下る必要がある。
トラバース後も雪や凍った急斜面を、息を切らせて登って行く。登り切ると、樹林に囲まれた気持の良い尾根が待っている。一休みしておにぎりを食る。
左側が切れ落ち、籔っぽい尾根を進んで行き、斜面がなるくなってくると駒岩である。周りを見渡しても何もない。
ここから鞍掛山の往復が、今回一番大変だった。無雪期であれば30分ほどで行ける鞍掛山まで、雪と氷で片道1時間ほど要した。
駒岩から南斜面をコルまで下って行く。無雪期では、コルから右へ巻きながら急斜面を登って行くのが、ルートのようである。それを正面の雪の急斜面を 直上した。表面がクラストしており、踏み込むと股下までもぐる。木につかまりながら、強引に体を上げて行く。しばらく急斜面を登り、右の方へ巻けるように なったので巻いて進み、なるくなったところで鞍掛山頂上となった。ここは展望がまるでないので、さらに先へ下り、登り返すと正面に甲斐駒ケ岳が屹立する展 望台となる。
お昼を食べ、お茶を飲み、景色を十分堪能した。鞍掛山は、かなりマイナーな山なのだろう。今回は、誰とも出会うことがなかった。
帰りのルートは、日向山の方まで戻らず、途中から下ってみた。たぶん地図上、赤い線のような感じで下ったのだと思う。
今考えてみると、巻き道と勘違いしたのだと思う。途中で引き返すかどうするか何回か考えたのだが、支尾根上の木に結構古い矢印の看板を見つけてし まったため、取り敢えず下った。するとやはりペンキがはげ落ちた看板でわずかに「不動の滝」と読めたため、多分大丈夫だろうと思い下った。すると支尾根は 終わり、5,6mの高さの岩の上に出てしまったので、左側斜面へ思い切って登ることにした。すると、ほどなく日向山のハイキング道に出た。鉄階段まで10 分ぐらいの距離だった。
以前はルートがあったのだろうが、今や人が通らないため岩はコケむし、看板も朽ちてしまっている。こんなルートをドキドキしながら歩くのも、また楽しいものである(熊に遭わなくて良かった)。
矢立岩P(6:30)-雁ガ原(8:00)-鞍掛山(10:45)-展望台(11:00)
駒岩(12:20)-錦の滝(14:20)-矢立岩P(15:00)